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グラフペーパー青山での新たな取り扱いに先駆けて、SETCHU(セッチュウ)のデザイナー、桑田悟史さんとの対談を行った南貴之。ふとした出会いのきっかけや、日伊で異なるものづくり事情に触れた前編から、話題はさらに踏み込んだところへ…。モードの本場の裏話に、それぞれの熱量の根源まで。エピソードどっさりの後編もお見逃しなく。
Interview & Text_Rui Konno

前半
はこちらから

―そう言えば、桑田さんが南さんのことを知られたのも先のパリ展のタイミングだったんですか?

桑田 悟史(以下桑田):いえ。僕は二十歳そこそこでロンドンに行ったので、もう20年前から日本にはいないんですけど、その前はセレクトショップで働いていて。そのころから一方的に存じてました。

南 貴之(以下南):そうだったんだ。どこにいらっしゃったんですか?

桑田:ビームスです。ただ、大阪だったので東京との繋がりはまったくなくて。それでもバイヤーのアテンドをすることもあったので、有名なバイヤーさんの方は一通りお名前を聞いていて。

―今は世界中のバイヤーさんと関わられるようになって、さらにアテンドの幅が広がったわけですね。

桑田:そうですね。やっぱり良いバイヤーの方たちは知識が半端じゃなくて歴も僕のほうが浅いですし、嘘は見抜かれてしまうので素直にお話しするしかないんですよ。それで言うと僕個人はサヴィルロウでの経験がすごく強みになってるなとは思うんですけど、すごくレベルの高い工場で独自の技術で生産していると言っても、それを伝えるのってすごく難しいと思うんですよ。ましてや僕らの服はただお店に置いておけば簡単に売れるような商品でもないと思いますし。だから、そういう部分をゆっくりと浸透させていくためにも、良いお店っていうのは我々にとってはすごく大事なパートナーで。

- SETCHU 2026 S/S LOOK

南:本当にそうだよね。ブランドとお店の関わり方っていうのは。

桑田:洋服の歴史や文化って、そうやって広がっていくと思うんです。

南:やっぱり僕らもそういう気持ちで買い付けをさせてもらってるし、僕らはつくり手とお客さんの間を繋げる仕事でもあるから、僕らなりに感じたセッチュウの個性をいかに伝えていけるかっていうところは楽しみだなと思ってます。良さを全部、完璧にわかってもらおうとするのはすごく難しいと思うけど、そこにトライしていかないと僕らも面白さがなくなっちゃうよなって。
- 青山店のセッチュウのコーナー

桑田:やっぱり大事なのはチームワークだと思いますし、セッチュウというブランド名にしたのも自分の名前ではなくてチーム名にしたいなという気持ちからで。我々が200年後にエルメスみたいなブランドになれたとしたら、自分の名前だとちょっとおかしいなと思ったんです。それよりも日本人として西洋の服で商売をする上で、折衷をみんなでやりましょうという気持ちで。

南:なるほど。俺は名前を決めるのが本当に苦手で、「このショップは名前なしとかにできないの?」とかっていつもゴネてます。

桑田:(笑)。お店の名前もそうなんですね。

南:はい。いつもオープン2週間前とかに決めたり。

―…(笑)。でも、昨今のメゾンはブランド名とデザイナーやディレクターの名前の席替えゲームが際立ちがちですよね。なんならクリエイション以上に移籍が話題になってしまったり。

南:まぁねぇ…。でも実際にそういうメゾンから声がかかったらどうするんですか?

桑田:これはノーコメントでお願いしたいです(笑)。ただ、実際にお声はかけていただいています。(LVMHプライズを)受賞したくらいのときには大きなところからも。だけど、今はセッチュウがすごく楽しくて、クリエイティブディレクションのお誘いはお断りしていて。カプセルコレクションなんかで数着のデザインを、とかっていうのは予定としてあるんですが。僕たちはまだまだ家で言うとファンデーション(基礎)をつくってる状態なので、自分ができることをもっともっとやっていこうっていう感じです。
南:セッチュウのチームは今は何人いるの?

桑田:すごく小さいですよ。海外セールスにノリさんがいて、商品開発で僕の下に若い子がいて、ロジスティックや事務をやってくれているイタリア人のスタッフがひとりいて。フルタイムのメンバーは僕とその3人だけです。

―かなりの少数精鋭ですね。

桑田:それ以外に色々な部分でお手伝いしていただいている方々がいて、たとえばアーティスティックディレクターっていう形でインスタ周りやファッションショーなんかのイベントごとを一緒にやってくれているのがカリーナ・フレイ&ステファニー・バースの2人で、ボッテガ・ヴェネタの緑のショッピングバッグをデザインした人たちです。フィービー・ファイロやエルメスの仕事もしてる方々で、毎シーズンイベントは絶対そのチームでやっていたりと、そういう外部のチームが何個かあります。

南:そういう編成なんだね。

桑田:そういう方々はすごく仕事ができるので、僕たちのチームもコンパクトなままできてます。新しく広げるよりも、これと決めた人たちと深く行くほうが好きですね。コレクションについてもひとつのものとしっかり向き合って、いろんな見方をしているうちにアイデアが湧いてくるっていうつくり方を毎回してるので、人との付き合い方も自然とそうなってきました。むやみに変えるのが、僕は得意じゃないんだと思います。

南:俺も好きなもの自体はそこまで多様じゃないけど退屈は嫌だから、ずっと好きでいるものの見方をアップデートしていきたいなっていつも思ってます。それはお店でも、つくっているものでも。自分の決めたコンセプトがまずあって、そこにどう準じるかで多様性だとか面白さを出したいなって。

桑田:僕も南さんとまったく同じです。セッチュウっていうものを自分と分離して見たときに、必ず3つのキーワードが入るようにしていて。

南:キーワード?

桑田:はい。ひとつがプレイフル ファンクショナリティ(Playful Functinality)、遊び心のある機能性で、もうひとつはギブ アンド テイク アーティザナル(Give and Take Artisanal)。つくり込むけど、ただ工場に「これでつくれ」と言うんじゃなく、彼らの話も聞きながら、お互いにバランスの良いものづくりをするっていう。最後はコンシダード タイムレス(Considered Timeless)…考え抜かれた、時代を超えるもの。それはセッチュウを始めた時点で設定して、ブレずにやっています。

南:なるほどね。
桑田:ファッションの流行りに左右されたくなくて。たとえばクワイエット ラグジュアリーとか、そういう言葉が毎回出てくるじゃないですか。

南:枕詞というか、檻に入れようとしてくる感じだよね。

桑田:そうなんです。ブレてる人たちって、それを求めてやっちゃうからブレるんだと思うんですよ。僕らもLVMHプライズを取ったときになぜかクワイエット ラグジュアリーのカテゴリーに入れられたんですけど、別にクワイエットにしてるつもりなんかなくて。そうじゃなく、さっきの3つの要素がなければセッチュウの商品とは認めないと自分で決めてやっています。最近またアーティザナルっていう言葉が流行ってるような気もしますけど、僕らは最初からそのつもりでやってるんで放っといてくださいという感じです(笑)。

南:それでもみんな枠に入れたがるよね。そういう言葉、聞くだけでゾッとするよ。

―シンボリックなサインやお題目がある方が扱いやすいんでしょうね。でも、生前のヴァージルからもお声がかかったり、カニエ・ウエストの下でも働いていた桑田さんは現在のファッションゲームでの記号性の役割を実感されてきたと思うんですが、ご自身の今のアウトプットからはその影響をあまり感じないのも面白いなと思います。

桑田:それはキャッチーなディテールだとか、そういうことですか?

―あ、わかりにくくてすみません。象徴的なディテールもそうですし、最たるところはロゴ使いですよね。ご自身の中で、そういうもののあり方についてどんなバランス感で考えられているのかなと。

桑田:なるほど。素晴らしい質問だと思います。それがすぐに理解できなかった僕はまだまだですね。おっしゃる通りで、すごくファッションにおいて重要なことだと思います。僕自身は親しみを持ってもらうためにブランドのアイデンティティを示すなら、控えめなほうがいいなと思っています。たとえばオリガミジャケットのシワの入れ方なんかがそうですね。今でこそ知ってくれている方はまだ少ないかもしれませんけど、いずれ広く認知されたときには多くの人に欲しがっていただけるようになるんじゃないかなと思っています。それも急にパッとは広まっていかないと思いますし、今の段階ではこれ以上キャッチーなことをするっていうのは特に考えていないです。

南:ディテールの個性をサインと捉えてるんだね。ロゴじゃなくて。
桑田:はい。強いていうならこの札くらいですね。これ、実はすごく労力がかかっているんですけど、日本のおもてなしの感覚だとか七夕の短冊だったりをここで表現したいなと思ったんです。もちろん着るときには取っていただくものなんですけど、何かそういうところに寄与するんじゃないかなというふうには思ってます。
南:このタグだよね? 面白いよね。

桑田:これから大きなロゴを入れていくとかっていうよりは、こういう形でいいブランドのものなんだと広めていけたらなと。僕が働いていたブランドの中では「絶対ロゴを入れろ!」とかっていう指示があるところもあったんですけど。

南:やっぱりあるんだ? そういうのが。

桑田:めちゃくちゃありましたね(笑)。ただ、おこがましいですけど、僕たちはエルメスのバーキンのような存在のものをつくっていきたいんです。オリガミジャケット、チノパンツ、そのデザイン自体が象徴的な存在として成り立っているような。たとえば映画の中にコンピューターが登場したときにスポンサーの関係でロゴが消されていたとしても、それがMacBookだってわかりますよね? 僕はそれがカニエ的なブランディングだと思っていて、僕もすごくそこに同意しています。バーキンも、何メートルも先からでもバーキンだとわかりますよね。僕らの服もそうでありたいなって。

南:カニエもやっぱりそういう考え方だったんだ?

桑田:はい。これは彼の下で働いているときからよく聞かれるんですよ。みなさん「カニエとヴァージル、どっちがより刺激的だった?」って。

―それは気になりますね…!

桑田:どちらも本当に素晴らしい才能を持っていて、多くの刺激を受けました。ただ性質はかなり違っていたと思います。カニエはゼロから何かを生み出す力に非常に長けていて、一方でヴァージルは、そのアイデアを世の中に伝わる形へと変換する力がとても高かった。どちらが欠けても、あの時代のクリエイティブは成立しなかったと思います

南:なるほどなぁ…。

桑田:これは具体的な名前を出すかはお任せしますけど、僕の中でカニエはジョン・ガリアーノに似てたんですよ。ファッションで無から…ゼロをイチにすることって、もうほぼ不可能じゃないですか。だけど、ジョン・ガリアーノとカニエはゼロからイチを生み出すパワーがあったなと思うんです。もしかしたら将来非難されてしまうかもしれないけど、これは責任をもって言えます。間近で見ていて、この人たちは本当にクリエイティブだったなって。そのレベルはもう他とは全然違いました。

―その面々と直に接した立場での証言は、本当に貴重ですね。

桑田:あとは、個人的にはやっぱりファッションがロゴだけで片付いてしまうのはもったいないよなという気持ちもありますね。

南:俺もやっぱり、まったくそういうものには興味がないなぁ。ジルサンダーを扱ってるときにもわかりやすいロゴものはいっさい買い付けなかったし、周りは「それが売れるんですよ!」って言うんだけど、「そうなんですね」って感じで。

桑田:難しいところですよね。もちろんわかりやすさを求める方もいるのでロゴは用意しているんですけど、それをTシャツにするよりは“この服は畳めます”っていうことのサインにしたりとか、アイロニーとして使ってる商品しかセッチュウにはないんです。最近は革製品の工場からも「ロゴを入れないならつくりたくない」とかって逆に言われることもあるんですけど(苦笑)。

南:え! なんで?

桑田:彼らもロゴを入れないと売れにくいって認識してるんです。

南:イタリア人、すごいなぁ…。でもその話は面白いね。俺もイタリアの工場でやってみたいけど、色々言われちゃうんだろうな(笑)。

桑田:でも、南さんが今つくられているもののレベルが高いのは、工場が南さんのオーダーだからと聞いてくれるからというところが大きいんじゃないですか?

南:そんなことないよ。最初は「おまえ、誰?」みたいな感じで何も話を聞いてくれなかったりするしね。だけど桑田くんの話を聞いていると、いつかイタリアで服をつくってみたいなってすごく思う。アイロン、いっぱいかけて欲しいなって。

―(笑)。海外のファッショニスタたちに会ったときに日本のことを良く言ってくださる方は多いですけど、桑田さんから見て日本のファッションというのは、世界から現状どういう評価になっていると率直に感じますか?

桑田:これはもうお世辞抜きにすごくいいですよ。特にお店規模で見たら、格好いいお店は断トツで日本に多いと思います。

南:それは俺もヨーロッパに行くと感じるな。日本のお店、海外でも通用するよなって。

桑田:例えば僕は昔ノース・フェイスでコンサルをしてたことがあるんですけど…。

南:そうだったの!?

桑田:はい。それでサンフランシスコに行ったときに「アーカイブを見せるよ」と言われて楽しみにしてたんですけど、それがほとんど日本規格だったんですよ。あとはヨーロッパのラグジュアリーブランドで働いてる知り合いにしてもコム デ ギャルソン出身者が多かったり、僕が働いていたブランドでも、ギャルソンとヨウジの過去のコレクションを暗記させられたんですよ。それで、「あのディテールを使って何かできないかな?」とかって。そうやってどこに行っても、日本の影響をすごく感じます。

―やっぱり改めて偉大ですね。あの方々は。

桑田:ただ、やっぱりデザイナーの影響力というところでは川久保さん、耀司さんの存在がいまだに大きいですね。だけど、昔に比べてファッション業界でもそれ以外でも、日本人の見られ方が変わったなっていうのはここ10年で特に感じますね。

―日本のデザイナーさんの服づくりの顕著な傾向のひとつとして、古着や過去のアーカイブをすごく研究してアレンジするという手法があると思いますけど、この春夏のセッチュウはそういうアプローチがもっと流暢というか、より自然に行われていて新鮮でした。

桑田:ありがとうございます。これは僕らが玄人向けであると自負する理由のひとつでもあるんですけど、基となる服の定義づけにはすごくこだわっています。

南:定義づけ?

桑田:どういうことかと言うと、例えばシングルブレストのジャケットだったら、その源流っていうのがいわゆる背広の語源になったサヴィルロウから伝わった'30年代のジャケットがスタンダードだよね、とか。先代の方々から名品とされるいろんなものを教えていただいた中で、僕のフィルターを通して「これはクラシックと呼べるんじゃないか」と思えるものを使うようにしていて。
―サンプリングソースへの理解が深い分、それをヒネるときにもシームレスにアレンジできるんですね。

桑田:ただ古いからとかではなくて、「これがいいものなんだよ」と昔教わった記憶が今も残っているのかもしれません。それって、やっぱり日本のバイヤーさんに教えてもらったことがすごく多いんです。彼らはいい意味でスタンダードについての似た考え方をお持ちだと思いますし、それが日本の文化のレベルを一気に上げたと思います。僕もそこにはすごく影響を受けました。

南:なるほどね。俺もセッチュウを最初に見たとき、組み合わせた全体のスタイルよりもまずひとつとつの服を見ちゃったのは、そういうところが理由だったのかも。お店としてのグラフペーパーはギャラリー的なコンセプトだから、その一着の服が作品の1ピースみたいに、服じゃない他のものと並べても成立するかどうかが大事だから。桑田さんは確かな経験があって、それが成立するようなものがつくれる人で、俺はそれがヤバいなと思ったんです。

桑田:すごく嬉しいです。でも、自分としては日々、もっといいものをつくりたいなと思ってます。やっぱり手仕事ってすごく難しいものなので、毎シーズンごそっと変えるんじゃなく、続けていく中で毎回より良いものにしていこうと。そこは工場さんにも評価していただけてると思います。

南:今の時代って、そういう洋服の玄人が買うべき服っていうのがすごく少ない気がするんですよ。それでみんな、古いものを探していたりすると思うし。だからこそ、セッチュウのクオリティや考え方はすごくピュアだと思うし、桑田さんは本当に面白い感覚で服をつくってるなと思います。やっぱり、ちゃんと現場を経験してきた人だなって。桑田さんがお店で販売してくれたら、一番売れるだろうなぁ(笑)。

桑田:お店に立つの、大好きですよ! 昔、ビームス時代に母親に言われたんです。「お金の良い使い方がわからないお客さんは、背中を押してもらいたいんだよ」って。今でも本当にいいものを楽しく買いたいっていう方は必ずいるはずで、その楽しい場に立ち会える販売っていう仕事はいまだにすごく好きな職種です。だから、ぜひ呼んでください。

南:ありがとう。本当に呼ぶよ?(笑) その時までにセッチュウのファンをもっと増やしていけるように、僕らも頑張ります。

桑田:ありがとうございます! 本当に、楽しみにしています。


SETCHU
取扱商品一覧


SETCHU Designer Appearance at Graphpaper AOYAMA
会期:2026年3月20日(金)14時-18時
会場:Graphpaper AOYAMA
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 5-36-6 ケーリーマンション1A/2D

イタリア・ミラノを拠点とするブランド〈SETCHU〉のデザイナー、桑田悟史氏がGraphpaper AOYAMAに3月20日(金)14時-18時の4時間限定で在店いたします。

当日は桑田氏本人が在店し、皆さまと直接コミュニケーションを交わしながら、ブランドの世界観や商品についてご説明する貴重な機会となります。

皆様のご来店をお待ちしております。




桑田悟史
1983年生まれ、京都府出身。セレクトショップの販売員を経て21歳で渡英し、サヴィルロウの名門テーラー、ハンツマンで本場の仕立てに触れる。そこで働きながらセントラル・セント・マーチンズへと通い、卒業後はガレス ピューやリカルド・ティッシ時代のジバンシィ、カニエ・ウエストなどの下でデザイナーとしての経験を積み、2020年にセッチュウをスタート。2023年にはLVMHプライズでグランプリを受賞した。趣味は釣りで、余暇に竿を握る時間が瞑想代わりなのだとか。

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